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演目解説

『石橋 連獅子』

――獅子の舞う、聖なる橋の彼方へ



 『石橋(しゃっきょう)』は、「半能(はんのう)」という形式で上演されることも多い演目です。「半能」とは、本来前場と後場に分かれた構成のうち、後半部分のみを演じる形式で、動きのあるクライマックス部分に焦点をあてた演出が特徴です。「半能」という形式は、物語としての起承転結よりも、視覚的・聴覚的なインパクトに重きを置いた構成となっており、特に前場が省略されるため、『石橋』の場合は、物語の背景にある「橋の意味」や「聖域への憧れ」を少しでも知っておくと、舞台がより立体的に感じられるでしょう。



 『石橋』の物語は、中国・清涼山に実在するとされた、幅わずか30センチ、長さ約20メートル、高さ3キロという、非常に危険な石の橋をめぐる伝説に基づいています。この橋は自然にできたものとされ、苔で滑りやすく、足を踏み外せば命にかかわるような場所です。しかし、その橋を越えた先には聖なる地があると信じられ、修行僧たちは命がけでそこを目指します。

その橋を渡ろうとする高僧を、子どもに姿を借りた存在が「渡るにはまだ早い」と止める場面があります。



 後半、聖なる地に現れる霊獣・獅子が勇壮に舞います。

後場の見どころは、獅子の舞に至るまでの演出と舞そのものの迫力です。獅子の登場前には「乱序(らんじょ)」という囃子の演奏が始まり、その中で「露の拍子」と呼ばれるゆっくりとしたリズムが打たれます。これは、石橋から水が滴り落ちる様子や、高所からの水音を表現しており、橋の危うさや神聖さを音で描き出しています。

 演奏が次第に高まり、ついに獅子が舞台へと現れます。今回上演されるのは「連獅子」の形式で、二頭の獅子が登場。真っ白な装束をまとった獅子が躍動的に舞い、もう一頭の赤獅子が更に若々しく華やかに舞台を駆ける、非常に動きの激しい展開となります。

 能というと、静謐でゆっくりとした動きのイメージを持たれる方も多いかもしれませんが、『石橋』の後場はまさにその対極。跳ぶ、回る、構える――肉体的にも負荷の大きい舞が展開され、演者の体力と集中力が試される演目です。



 石橋の上に舞う獅子の姿。そこには、ただの祝祭性を超えた、霊的な緊張と荘厳さが宿っています。ぜひ、全身で感じ取っていただければと思います。

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